神奈川レース

神奈川レースは第二次世界大戦後、昭和24 年にスタートした会社。現在は有名ブランドの刺繍布を扱っています。当初は肌着の肩紐をつくる細巾織物を生産していました。アメリカ映画で刺繍の入ったブラジャーを目にし、製品に付加価値をつけたいという想いから、昭和35 年にレースを始めたのだそう。インナーから始まり、衣服の刺繍、国内生産の高級下着の刺繍を行っていましたが、国内メーカーの生産は多くが中国へと移ってしまいます。日本で生産が盛んだった時代にはレースの機械を何十台持っているような工場もありましたが、今では数台の小さな工場がほとんど。現在も続けられている工場は日本全国を見ても本当に数少ないようです。

人の手をたどるレース機

レース機は、手刺繍と同じように生地に枠が張られていました。のぞいてみると、針は上下するだけで、枠が左右に動いて形ができていく様子が見えます。レース機の長さは1 台なんと14m!ちょうど1反を同時に刺繍できるようになっているのだそう。このようなレース機を扱う工場は少ないため、国内にレース機を扱える技術者はもういません。不具合が起きた際は、海外の技術者に連絡するため、すぐに改善できず、やり取りが難しくなっているそうです。レースの図案は、元絵の6 倍に印刷され、1針1針ペンでデータを打ち込んでいきます。糸の始まりと終わりを点で打ち込み、レース機は点の位置を記録して布に針を打ち込むのです。打ち込まれたデータは、打ち込んだ順番にならって刺繍されます。図案が刺繍になる際、もう少しここはふくよかにしたい、スリムにしたいといったようにイメージを膨らませて修正を重ね、データ化するのだそう。この図案製作に、それぞれの工場の特徴が出ると言います。デザイナーのアイデアだけではなく、技術者のセンスによって出来上がりは大きく変わっていくため、デザイナーが望んでいる結果を汲み取り、期待以上の図案を仕上げる。人気の刺繍布は、このような技術者による繊細な作業から生まれていきました。

機械のミスを手直しする

取材に訪れた際に目に留まったのは、ミシンや机に向かって黙々と手仕事をする方々。機械のミスを手直しするという細かな作業をされていました。一見工場らしく思いますが、今まで訪れた繊維工場では目にしなかった光景です。他の工場では、ミスは使われない部分として避けるという印象がありました。しかしここでは、それを人の手でコツコツと直している。神奈川レースさんの繊細なものづくり精神が感じられました。

パワフルな佐藤さん

工場の案内をしていただいた佐藤さん。その中で、たくさんのお話を聞かせていただきました。佐藤さんは、近くにレース工場ができたことをきっかけに興味を持ち、この職業を選ばれたのだそう。大学三年生の私たちを「自分の子だったら…」と親のような気持ちで将来を心配してくださったり、免疫を高めるために健康の秘訣を教えてくださったり、スマートフォンを取り出して、インスタグラムに載っているご自身の仕事を紹介してくださったり、、と、そんな気さくでパワフルな姿に驚かされました。佐藤さんの、自分たちが良いものづくりをしているという自信と、親身になって話を聞いてくださる姿勢が、お取引先との信頼関係を築いているのでしょう。これが、神奈川レースさんにしかできないお仕事に繋がっているのだと感じました。

text:Sena Nakano

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