八木染色有限会社

建物と建物の間に、民家のようにひっそり立つ工場がありました。中を開けると、水蒸気がもくもくと漂った空間でエプロン姿の女性が3 名、笑顔で作業をしている光景が目に入ります。一瞬、街のパン屋さんに来たのかな?と思うようなその工場は、特殊な紐を染める糸染め屋さんでした。

白く染める

八木さんが染める色はグレー、黒、白、などのナチュラルカラーの依頼がほとんどで、主にブラインドをつなぐコードの部分などを扱っています。ナチュラルカラーは今のインテリアの流行りでもあるので、影響が出ていると感じます。お話をお聞きする中で驚きだったのは、生成りの糸を上から白色に染めていたこと。地の白に青の染料をほんのり混ぜることで、青白くなり白色が際立ちます。最近では生成りのような自然な白を求められるため、漂白剤で白くするくらいの色合いで染めることも多いそうです。八木さんはカセ染めの糸染め屋さんですが、現在カセ染めを受け持つ工場は少なくなっているようで、八王子という小さなコミュニティが残した方法なのかもしれないと感じました。

手仕事が残る現場

八木さんが先代から工場を受け継いだ時、染色のデータが残っておらず大変だったとお聞きしました。先代は同じ工程を何度も繰り返し、身体で覚えていたのだそう。天気などの状況によって温度や染料の濃さを変えていたため、データとしては残っていませんでした。色によっても染まりやすい温度が違うそうで、糸染めにはアナログな感覚がたくさん残っているのだと感じます。また、昔は八木さんご自身の部屋だったという事務所は染料を調合する空間になっていて、生活と染色が密接にある様子が、私たちが大学で学ぶ景色と重なりました。八木さんのあたたかい工場内には、先代のおじいさまの名残が至る所に残っています。そこで3人の女性が汗をかきながら生き生きと働かれている、とても元気を頂ける空間でした。

パン屋のような染色屋さん

キャスケット帽をかぶった女性とレンガ作りのボイラーが、まるでパン屋さんのようにかわいらしい八木染色さん。工場手前にはエレベーターのように糸を2 階に上げる機械、間には糸染めの機械、部屋の奥には、今は使われていないレンガづくりのボイラーがあります。この古いボイラーは大変貴重なもので、現在は全国に二つしかないものだとお聞きしました。2 階は乾燥室になっています。ワゴンに脱水した糸をいれ、機械で2 階に上げます。私たちも階段で2階に上がると、天井には大量の物干し竿がありました。次々と干されるクリーム色の糸は、まるでパン生地のようです。物干し場は、とてもあたたかい。夏になると熱中症になってしまうほど暑くなり、サウナのようになるそうです。昔、冬の間働いて、夏になるとあまりの暑さに辞めてしまう方がいたそうで、3K(きつい・きたない・きけん)の中でやっていくのが染色です!と話してくださいました。

text:Misato Kumagai

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