成和ネクタイ研究所

中央線の八王子駅に近づくと、車窓から見える「SEIWA Neckwear」の黄色い大きな文字とベージュの建物。電車に乗るたびにずっと気になっていましたが、今回この建物にようやく入ることができました。

正体はネクタイ生地の生産工場

建物の正体は、ネクタイの生地を織る工場。九段下に本社を構える株式会社成和ネクタイ研究所の生産現場が、八王子の線路沿いにあったとは知りませんでした。

事務所に入ってまず驚くのは、20mほどの長い廊下に一列に並んでいる本棚とファイルの数々。この中には、創業以来成和ネクタイが作ってきたネクタイの柄デザインが収められていました。1935年の創業以来、ネクタイを企画から手がけ、今まで作った柄の数は4万以上に登るそうです。この中から新しい企画を考えるデザイナーさんもいるそうです。

超高密度にこだわった生地作り

ネクタイ生地は主に、着けた時に形がしっかりと立つ厚み、締めるための柔らかさ、艶、そして精密な柄、この4つが特徴です。
細いシルクの糸を1cm間に90〜100本も並べて高密度に織ることで、厚みがありながら柔らかく光沢のある生地になります。

成和ネクタイではその中でも、糸の本数を他社よりも多い超高密度な生地にすることで、より綺麗で艶のあるネクタイを作っています。

明るい色をより鮮やかにするためのタテ糸バリエーション

工場にはワインレッドやベージュ、水色など、様々な色のタテ糸が機械にかかっています。ふつう工場で見るタテ糸は白か黒が多いですが、成和ネクタイではカラフルな糸をタテ糸に使用することも多いそうです。

こうすることで色の表現が広がり、見せたい色をよりクリアに出すこともできるそう。ベーシックな色だけを使えば手間もコストも抑えられますが、多彩な色を使うことで、より綺麗で高級なネクタイを目指しているそうです。

高級ネクタイだからこそ、今から売っていく

クールビズやリモートワークの促進、働き方の多様化など、現在仕事でスーツを着る場面がどんどん減少しています。

日常的にネクタイを使うことが減っている反面、最近では「特別な場面で付けるネクタイを」と、高級なネクタイを求める声が以前より増えたといいます。

以前より生産量を確保するのは難しいですが、色や素材にこだわった生地作りをしている成和ネクタイならではの高級なネクタイは、人々の今の需要に応えています。

高密度シルクを活かしたこれからの販路

「これからは高密度な生地が求められるインテリアや、シルクの技術を活かした製品への展開も視野に入れてものづくりをしていきたい」と語る日比谷さん。

今までネクタイを作っていた機械を、洋服やインテリアにも向いた生地を作れるように規格を変えるなどしているそうです。

成和ネクタイの強みを残しながら時代に合わせて変化しようとする姿勢は、成和ネクタイがある言葉を大切にしている証。

「温故知新」の思いから生まれた機資料館

少し話が逸れますが、成和ネクタイの敷地内には、かつての機械や道具を集めた機資料館があります。中国の古い織り機やあらゆる土地で開発された糸巻きなど、全国各地の織物に関わる機械や道具が収められている、大変珍しい資料館です。

中に入ると、その展示物の多さに驚きます。
糸巻き機一つとっても、その土地ならではの特徴や工夫が反映されている道具たち。その一つ一つを全国から集め、丁寧に保管されていました。

このような資料館は通常行政が管理していることが多いですが、この資料館は一企業が作ったもの。これほど壮大な資料館を作った背景には、先代のある思いがありました。

「先代は『温故知新』の言葉を大切にしていました。『昔の知恵や努力の上に自分たちのものづくりがある。それを見た上で新しいことにチャレンジしていきなさい』そんな考えがあって、この資料館を作りました」

成和ネクタイのものづくりや新しいチャレンジは、この「温故知新」を大切に受け継いできたからこそ生まれています。

text:Rio Moriguchi

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