有限会社澤井織物

伝統工芸士は、その道だけを極める人。そんな固定観念をくつがえす、自由で柔軟な織物工場があります。八王子の市街地からひと山超え、秋川が流れる高月町で唯一の織物工場、澤井織物。4 代目の澤井伸さんは現在、手織りで着物の生地を織る傍ら、自動織機も導入し、マフラーから服地まで幅広い生地を織っています。

織れるものはなんでも

澤井織物の作る生地は、「本当に織物?!」と思うほど、ユーモラスなものばかり。たとえば、手で織っているのは糸ではなく太い銅線。工業資材として、静電気を放電するために使用されるそう。手織りの設備と技術があるからこそ、糸状であればとりあえず織ってみることができるため、電子系の開発を求めて絶えず新しい依頼があるそうです。

機械織りに取り入れた手織りの精神

手織り機を使えば人の手加減で様々な素材や太さの糸を織ることができますが、機械になるとそうはいきません。機械での織りやすさを優先する必要があり、できあがる生地の風合いは、柔らさが軽減することも。しかし澤井織物は、手織り機と自動織機どちらの技術もあるからこそ、手織りのような素朴で優しい風合いの生地を機械でも作ることができます。澤井さんは、「いつもベースには手織りがあって、生地開発で一番こだわっているのは風合いを作ること」とおっしゃっていました。

広い土地を生かした織物実験場

広い敷地内には、幅の狭い織物が作れる手織り機から、幅170cm 程度の織物が作れる機械、染め場まで、あらゆる設備が揃っており、まさにラボのような工場。従業員には美術やファッションの学校を出た若手も入っており、若手のアイデアをすぐに形にできるような環境でした。

旅人的機屋、澤井伸さん

織物職人さんだからと言って、ずっと工場にいるわけではありません。織物工場は、自分で作りたい布を実際に形にできる場所。だからこそ、「こんな生地、織れませんか?」という要望を聞いたり、自分の工場で何ができるのかプレゼンに行く必要もあります。澤井さんは工場にいて糸や機械をいじるよりも、他の産地へ赴きアイデアを持って帰って来くることが多いそう。工場で働く若手の従業員たちが、澤井さんのアイデアを形にするため、日々奮闘しています。

ここ数年の取り組みは、蚕が食べる桑の葉を使用し、澤井織物で織った生地を桑の葉で染めるプロジェクト。この事業を進めるために、工場の中に染め場を作ってしまったといいます。澤井さんは外から新しい風を持って帰り、ご自身の工場を日々アップデートさせる旅人的な機屋さん。東京にあるからこそできる営業と、八王子の広い土地を活かしたものづくり。その二つができる利点を強く感じることができる工場でした。

text:Rio Moriguchi

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