有限会社オカド染色工業

オカド染色をきりもりされているのは、三代目の山口琢磨さんと弟さん。仕事の内容はもちろん、趣味や遊び心を大切にする山口さんの明るい人柄が印象的でした。

職人の顔

取材中は山口さんが案内やお話を、弟さんはにこやかにお話を聴きながらも工場のお仕事を気にかけ、キビキビと動いていらっしゃいました。

アクリル素材を多く扱えることが、他の工場には代えられないオカドさんの特長です。実はアクリルの中にはたくさんの種類があり、その数20種類以上。それぞれ染め方が異なりますが、オカドさんその多くに対応することができます。均一に染めるためにゆっくりと時間をかけること、それぞれの工程に適切なタイミングがあることを話してくださり、その中で糸染めの複雑さや山口さんの職人としての顔をみました。

工場の現状

オカドさんの糸巻きスペースは離れにあり、10 年前は糸巻き屋があったけれど、高齢でやめてしまい、ウチでやるようになったんだ、と山口さん。また、ぽつんとオカド染色さんの工場が一軒あるように感じましたが、山口さんが幼いころは近所に工場が沢山あり、周辺は商業地だったけれど、昭和40 年頃公営の規制により下水処理設備が必要になり、一気に工場が減ってしまったと話してくださいました。今は製造されていない貴重な染色機や、機械の修理をする技術者がいないため、自ら部品を作って修理するそう。産業全体が衰退している今、機械が生産されなくなったり、修理できる技術者がいなくなっています。使われなくなることで高度な技術は次々に失われている為、今までと同じモノづくりが難しい時代が来るかもしれません。失われつつある日本の高い技術や職人さんの未来を残すために私たちにできることはあるでしょうか。

ミュージシャンになりたかった

琢磨さんは若いころドラムに夢中で、ミュージシャンになりたかったけれど、家を継いで欲しいと言われていたそう。今でも趣味は音楽で、ジャンルはヘビーメタルからハワイアンまで。ドラムを叩きながらギターを持って歌うそうで、趣味を大切にしていることをとても楽しそうに話されていました。また、オカド染色さんの乾燥機にはそれぞれ川の名前が付けられていました。付けたのは、先代である釣り好きのお父さん。乾燥機にはちゃんと名前のプレートが付けられていて、大切に使われてきたこと、お父さんも趣味を大切にされていたことが感じられました。

「見返してやりたい」

いつかは職人をやめればいいとずっと思っていた山口さんでしたが、ある時、配達先で
先代のことをボロクソに言われ、職人に対する社会の厳しい声を肌で感じたと言います。「見返してやりたい」という怒りが山口さんの原動力になり、今日まで続けてこられたことを語って下さいました。山口さんの最も印象的なところは、「夢がある」ということです。職人としてプライドや、職人に冷たい社会をいつか見返したい、認めさせたい、という気持ちがあります。「八王子の繊維産業を何とか残して、繋ぎたい。」と、笑いながらも山口さんの強い意志を伝えてくださいました。

text:Sena Nakano

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