木村メリヤス

つくるのいえの玄関には、小さな可愛いニット機があります。この工業用ニット機は、八王子の木村メリヤスさんが実際に使用していたもの。工場を閉められるらしく、工場を整理して、ニット機も鉄くずで捨てる予定だったものを譲って頂いたそうです。木村さんはつくるのいえで機械を組み立て、私たちに優しく使い方を教えてくださいました。

はじめての編み体験

つくるのいえにやってきたニット機を触らせていただきました。木村さんは、ニット機を動かしたことの無い私たちにも、一つ一つ丁寧に教えてくださいます。

木村さんの作業を近くで見ると、動きに一切の無駄もありません。非常に素早い編み立てに、熟練した職人さんの仕事を感じます。実際に持ち手を持って動かしてみると、木村さんのように滑らかに素早く編むことは難しく、膝を曲げて腰を入れてブレないように左右に動かしていきます。体重移動をスムーズに、滑らかに動かすことがポイント。想像よりも力のいる作業ではありましたが、慣れるとリズム良くスルスルと編めるようになりました。出来上がったのは手では編むことの出来ない、目が細かく詰まった丈夫なニット。伸縮性があり、端はくるくると丸まります。自分の編んだ部分が台の下から見えてきたときは、なんとも嬉しい気持ちになりました。

手動の機械

木村さんは、八王子の工場で40 年以上工業用ニット機でニットを生産していた職人さん。主に婦人向けのセーターをパーツごとに分けて編んでいく手法で製造されていたそうです。製造にはこの手動式横編機、通称「手横」と呼ばれる機械を使用していました。「工業用」と聞いて全自動の機械をイメージしていましたが、目の調節や配色の切り替え、模様編みも全て手動で行います。左右に糸をかける「キャリッジ」を手動で動かすことで、ニットが1段ずつ編まれていくのです。木村さんが一番思い出に残っているニットは、7 色の糸をランダムに編んでいくニットだったそう。色の配置と幅、並べ順が事細かに指示され、しかも総柄。一段編むたびに次の色を確認しながら編むため、すごく大変だったと言います。ファッショナブルな製品は、1 人の熟練した技や経験でできています。こうした技術を持つ人が八王子にはたくさんいたのだと誇らしく思いました。

工夫の詰まったニット機

ニットを編む時は編み目が浮いて外れてしまわないように、下に編み地を引っ張ります。その時には鉄の重りをニットに引っ掛けてテンションをかけるのですが、つくるのいえにある手横で使用する重りや重りを掛ける紐などは、全て木村さんの手作りです。それを聞いたときはとても驚きました。針金を曲げて形が作られていたり、ニットの紐でぶら下げられていたりします。仕事をする中でより使いやすく、効率よく編み進めるために変化していった、木村さんの工夫の詰まったニット機だということが良くわかります。また、木村さんがニット機に刷毛で油を塗る作業が印象的でした。手に馴染んだ機械が何十年と大切にされてきたことが伝わってきました。

text:Hirono Aoki

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