石森染色有限会社

石森染色さんは、主にネクタイ用の糸を染めている糸染め屋さん。天井の高い広々とした工場には、機械を学んだ経験を生かし、仕事の効率化をはかるために工夫し尽くされたこだわりがたくさん詰まっていました。

いかに効率をよくするか

石森さんは大学時代、繊維関係ではなく東海大学で機械を学んでいました。とにかく効率を
重視する石森さん。大学3年間で授業を効率よく履修し終え、大学4年生になると東工大の研究室で実験などをしていたそう。そして大学を出て働いた後、実家の工場に入りました。工場に入った当初から、機械の知識を活かし大型の機械やボイラーなどを工場に取り入れます。皆の反対を押し切って1億円の借金をして行なったものでしたが、石森さんは「3 年で返す」といい、その言葉通り3 年後には全て返し終えていたのだそう。その時の機械が今も現役で動いています。

石森さんが多くの機械を導入した理由は、もちろん仕事の効率をよくするため。「ほら、川が流れてるでしょ」工場の中では水が音を立てて川のように流れていました。機械を導入するまでは、室内に流れているこの川で、手作業で糸染めをや洗いなどをしていたのだそう。「仕事が嫌い」と笑いながら言う石森さん。多忙を極め体を壊した経験もあり、手作業を見直して、いかに効率よく仕事をするかを考えた結果が今の機械化につながったと教えてくださいました。

日本に数台の機械

石森染色さんには他の糸染屋さんにはあまりない、精練から染色までを一貫して行うことのできる大型の機械があります。精練とは、糸に付着している不純物を落として色が染まりやすくするための前処理のこと。通常、精練と染色は別の機械で行われ、何工程にも分かれます。しかし石森さんの工場では、精練が終わると同じ機械の中に染料液が流れ出し、一度に染色までを終わらせることができるのです。この機械は泡で糸を包み込み、摩擦の少ない精錬ができることが特徴。大変珍しく、日本に12 台しかないのだそう。そのうちの2台が石森さんの工場で動いているということです。ネクタイは繊細な糸を高密度で織るため、糸の色むらや傷がとても目立ちます。そのため、こうした糸をなめらかに美しく仕上げる染色技術や設備を求め、八王子以外の産地からも糸染めの依頼が来るのだといいます。

見通す力

石森さんの趣味はドライブで、伊豆の温泉によく行くのだと笑顔で楽しそうにおっしゃっていました。そんな柔らかな物腰とは反対に、仕事に対しては厳しく先を見通した決断力のある石森さん。2016 年に全国で規制されたアゾ染料は、ヨーロッパでの規制の流れを参考に、石森染色さんでは2000 年に使用をやめています。機屋さんが海外輸出したときのことを考え、早くから決断したそうです。常に依頼される方のために、工場のために、最善の決断をしてそれを実行されていることがわかります。先を見通した決断を実行し、妥協せずにものづくりを続ける姿勢が印象的でした。

text:Hirono Aoki

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