整理加工のお仕事

街の中で布が出来上がると、整理加工屋さんに持ち込 まれ、綺麗にセットされます。八王子に唯一残るという整理加工屋さんを訪ねました。

大恵さんは創業約50 年の整理加工屋さん。昔はネクタイ生地を扱っていましたが、当時繊維産地の多くがネクタイを扱っており、大恵さんは会社の強みを出すためにマフラー加工の仕事を始めたのだそう。その頃は東京オリンピックを境に映画が流行し始めた頃で、その影響でマフラーが広く知られるようになっていたのです。

現在は国内製マフラーの需要が減り、市場を占めているのは外国製の製品。そのため、今はマフラーの仕事よりも個人で加工を頼むお客さんが増えているそう。時代に合わせ、大恵さんは大小様々な加工ができるマルチな整理加工屋さんへと変化していきました。

起毛の加工

整理加工とは、生地にアイロンをしたり、縮絨・起毛・毛玉とりをしたりなど、布の雰囲気や手触りを生み出す仕事です。小宮さんがその中の起毛という加工方法を教えてくださいました。起毛は、繊維を毛羽立たせて布のボリュームを出す加工。工場内の起毛の機械にはたくさんの針金が生えたロールが上下に2 つ付いていて、片方は内巻き、片方は外巻きに回転しています。その間に布を通すと、上下のロールが繊維ををひっかいて、布が毛羽立っていくのがわかります。機械を触らせていただくと、手に引っかかるような感覚で少しチクチク。この機械は「チーズル」と言い、機械化する前はトゲトゲしたアザミのような植物を使うことが主流だったそう。その植物がチーズルという名前なのです。当時使っていた植物のチーズルを見せて頂きました。機械に負けない硬さがあり、布にこすりつけるとしっかりと起毛します。チーズルの芯の部分は空洞になっており、当時はそこに棒を通して長く繋げることで効率よく使用していたそう。自然を利用した先人の知恵に驚きました。

ユニークな工夫

大恵さんは、ある程度のメートル数がないと加工することができない一般的な加工屋さんと違い、どんな小さな布でも細かな対応を取ってくれるため、作家さんや個人のクライアントさんが多いのだそう。小ロットの依頼は相手とのコミュニケーションが大切になるため、1回きりの仕事よりも継続してコニュニケーションが取れるほうが良いお仕事に繋がるのだと小宮さんは言います。

工場内は、小宮さんの工夫に溢れていました。見たこともないような大きい洗濯機はどんな大きさの布も洗えるようになっていたり、それと対照的なとても小さなミシンは上糸だけが縫われるようになっており、それを使って布の仮止めを行っていたり。大きなまち針は手作りで、作業中に布を扱いやすくするための工夫なのだそう。このような知恵と工夫が、幅広く布の加工を扱える理由なのだと思います。細かな対応で希望を叶えてくれる、ユニークな工夫に溢れた大恵さんでした。

text:Misato Kumagai

工場めぐりMAPへ戻る