文化・ファッション
テキスタイル研究所

ファッションショーなどの華やかな舞台における陰の立役者として八王子繊維産地が活躍していた1980-90 年代。当時について調査する中、英治さんの名をあちこちで耳にしました。2013 年5 月に開所した、文化・ファッションテキスタイル研究所。八王子市北野に位置するこの研究所は、全国にも有数の貴重な生地アーカイブや、織物に欠かせない設備が充実しています。そんなテキスタイルの宝庫のようなこの場所は、如何にして生まれたのか。所長の宮本英治さんを訪ねました。

テキスタイル開発の幕開け

研究所の門をくぐり、手前にある部屋へ足を踏み入れると、そこには一見教室のような空間が広がっていました。その中をぐるりと囲む生地アーカイブの数々。それは、研究所の前身である織物屋さんの「みやしん株式会社」が積み上げてきた資料です。奇想天外な布のオンパレード。好奇心を掻きたてる魅力的なテキスタイルが並び、布のことを良く知る人も知らない人も虜にしていきます。

唯一無二の生地アーカイブ

1970 年代初頭、当時のみやしん株式会社では主に和装の生地を生産していました。その頃、大学で経済を学んだのち旅行会社に勤め、実家の織物業とは縁遠い生活を送っていた英治さん。父の勧めから家業に入り、その中で呉服業界を見るうち、洋服地に向けたテキスタイル開発の必要性を強く感じたそう。当時28 歳、家業を継いだ同年代の仲間たちは、工業高校で織物の基礎を学び、18 歳から工場で働いています。言うなれば10 年以上遅れをとっていた英治さんは「追いかけて、取り戻 して、追い越そう」と決意し、独学でがむしゃらに学びました。より魅力的な服地の開発のため、織物にとどまらず、染色・整理加工・デザイン・パターンなど、幅広い知識を深めた英 治さん。それが全国の様々な繊維業者とのつながりを生み、今日の研究所へと続く布石となったのです。

伝統とは革新の連続

東京都心に近い産地であるため、日本を代表する多くのブランドが足を運んだ八王子。その結果、この街には全国の繊維産地とは違う独特の風景があったように思います。そのひとつを証明するのが、文化・ファッションテキスタイル研究所に残るアーカイブです。全国的に見ても稀少な、クリエイティブなものづくりがこの街にあったということ。そして、それが幸運にも保存されていること。この街では、稀少な資料であるにも関わらず、保存されることなく消えてしまったアーカイブがほとんど。それでも、全国的にも有名であったみやしんが生み出してきた資料がこうして残され、次世代の教育に活用されていることは、街にとって宝であるように思いました。

text:Asami Ohara

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