八王子を体験する

私たちは日々の学校生活で、布作りをする毎日を過ごしてい ます。八王子テキスタイルプロジェクトを通じて、そんな私 たちをいくつかの工場が受け入れてくれることになりました。 プロの職人さんたちはどんなものづくりをしているのだろう。 それは、大学で教わることとどう違うんだろう。八王子を 体験した半年の中で、学校だけでは知ることのできないもの づくりの世界が見えてきました。

メンバー紹介

岡村織物

奥田染工場

佐藤ニット

つくるのいえ

有限会社佐藤ニット
ニット工場 大横町

佐藤ニットは、東京都に残る数少ないニット工場。周りの工場が次々廃業していく中、佐藤さんは企画力をつけたり設備を変えながらニットを作り続けています。控えめな佐藤さんご一家ですが、依頼者の要望をどう形にするか徹底的に考える真摯な姿勢に、絶えずブランドから依頼がきます。

優しい着心地のホールガーメント
佐藤ニットは2010 年から、主にホールガーメント機を使ったニットを作っています。ホールガーメントとは、縫製を省いて編機のみで綺麗に仕上げることができる製法のこと。世界で初めて島精機製作所が独自に開発し、日本のメーカーがその8割を占めています。ホールガーメントで作られたニットは縫い目が肌にぶつかる着心地の悪さがなく、体にストレスを感じにくく優しい着心地になります。

要望に全力で応える、静かな情熱
佐藤さんはほとんど依頼を断らないと言いま す。多少難しい依頼であっても、相手の要望をどう形にしていくかが重要なのだそう。佐 藤さんはあまり前に出るタイプではないですが、相手の熱意を汲み取り真摯に応えてくれ ようとする姿勢が、細部まで配慮が行き届いたニットになっているのだと感じました。

機械と繊細な手仕事
ニットは機械で製作していますが、機械は 100%綺麗なものが作られる訳ではないため、ほつれや編みそこないの部分が出てきたら一 つ一つ目を拾って手作業で直します。また、ニットは引っかかりやすくゴミがつき やすいため、何度も製品のチェックをするそう。デザインは、「洗い」の工程で必ず縮む ことを想定しながら決められます。なんと、洗いの時間が1分違うだけで仕上がりの厚さ や手触りが変わるそうです。こうした細やかな微調整により、綺麗なニット製品が出来上 がるのです。

佐藤ニット
インターン日記

プロの仕事を学ぶ!

ニットを洗う前と後では触り心地やサイズ感が全く違って、目が詰まって柔らかくなることがわかった。長年の感覚で微調整されてる部分があり、さすがプロの仕事だなと感じた!

発足!つかいきる課

人の役に立てないまま捨てられる糸を、少しでも減らせるように
ニット製造では、同じ種類・同じ糸でもロット(製造番号)が変わってしまうと色ムラがでてしまって使うことができないので、半端に残ってしまう糸がたくさんある。そんな少しずつ余ってしまった糸を使って小物を制作して販売する、「つかいきる課」を発足!無縫製ニットを知らない人にも良さを伝えるため、言葉選びに気をつけながら話し合った。

webショップオープン!

「つかいきる課」のw e bショップ(https://satoknito-tukaikiru.stores.jp/)をオープン!サイトで使用するための写真撮影では、商品やサイトの見せ方を中心に考えていった。 「佐藤ニット」という会社の世界観をどうつくるかを試行錯誤。佐藤ニットさんも私たちも初めてオンラインストアを立ち上げるということで、わからないことだらけだったけど、楽しみながら取り組むことができた!

岡村織物
織物工場 中野上町

岡村織物では親子でものづくりを行なっています。あごひげが特徴的で「仙人」の 愛称で慕われるお父さんの清さん。そして、優しくてシャイなのにときどきひょう きんな息子の秀基さん。お2人とも機械いじりが得意で、工場には様々な国や種類 の織機が集結しています。

創業からのものづくり
創業はちょうど90 年前の、昭和5 年。反物、着物関係の織物から始まり、戦前はネクタイ、戦時中は軍服を、戦後から今までは基本的にネクタイ、ストールをつくる仕事をされています。
しかし、清さんは他とは違うものづくりをしたい性分らしく、金属糸を使用した織物、舞台衣装、産業資材など、特殊素材を用いた生地も開発したことがあるそう。お取引先と共に研究を重ね、時間をかけて熱心にモノづくりに向き合われています。休日にも残糸で組み紐づくりに取り組む姿は、岡村さんがモノづくりそのものに夢中であり、モノをつくることに喜びがある人であることを象徴しています。

岡村織物らしさ
そうして作り出されるモノは枠にとらわれな い活躍をします。国内デザイナーがしのぎを削って新しいファッションを生み出していた 80年代には、デザイナーの奇想天外なリクエストに耳を傾け、面白がり、一緒になって 開発をしました。またある時は金属の織物を頼まれ、作ったものがフェンシング競技で使 用する衣服になりました。
こうして岡村織物で誕生した布の数々は、依頼主の手に渡ると大抵工場から姿を消します。それは2人が完了したものに執着しない性格で、一つが終わるころには次に興味が移っているからかもしれません。勿体ないような気もしますが、こうした精神が岡村織物らしさの基盤にあるのだと思います。

岡村織物
インターン日記

相手を想定したデザイン

岡村さんから「ビジネスシーンで使いやすいネクタイ」という条件をいただき、デザインを考えた。普段学校で勉強している柄作りとは違う視点だったので、完成したデザインは実現が難しい色柄になってしまった。相手を想定した実用的なデザインの経験は、とても勉強になった!

商品を提案!①

ジャガード織りの特徴を活かした昆虫柄のネクタイ
ジャガード織りは、細かい柄の表現や立体感が特徴の技法。八王子織物が得意とするシルク素材の光沢とジャガード織りの特徴を、昆虫の模様に重ねた商品を提案!昆虫の模様の、小さなドットの集まりで作られた大きなドットを抽出してデザインした。ドットの背景の組織を工夫して、奥行きのあるデザインになった!

商品を提案!②

実家のお寺× 岡村織物!ジャガード織りのお守り
インターンを通して、人の繋がりを実感した。このご縁を大切にするために、実家のお寺用のお守りを提案!一番の特徴は、お守りの中に入っている願掛けの紙もジャガード織りで織っているところ!お寺のロゴと、蓮の花をモチーフにデザインした。

株式会社 奥田染工場
シルクスクリーン工場 中野上町

奥田染工場は手刷りのシルクスクリーン工場です。奥田染工場が葛飾区から八王子 中野上町に移転したのは1932 年。現社長の奥田さんで4 代目になります。工場の 特長は、全国の工場やデザイナーと繋がりがあること、工場独自の様々な技術を持っ ていることです。

布づくりの隠れ家
八王子の町工場の多くがそうであるように、もしかするとそれ以上に、奥田さんの工場は住宅街にひっそりとあります。看板がなくて、ポストに手描きの「奥田染工場」の文字。昼時に訪れるとカレーのにおいがして、職人、デザイナー、社長や美大生、近所の人まで一緒になって、世間話やテキスタイルの話をしながら食卓を囲む。そんな不思議な光景が広がっています。

多様な技術
ネクタイやセーターのプリントからDC ブランドを経て、現社長の奥田さんが「人との繋がり」を引き継いだ現在。シルクスクリーンという言葉ではひとくくりに出来ない、様々な表現を叶えてくれる工場として活躍中です。テカテカ、くしゃくしゃ、透け透けの布。時には、砂や鉄粉を使った布なども。今日も奥田染工場では布を面白がる人たちが、ワクワクする布を生み出しています。

「繋がり」を育てる
先代社長は人の面倒を良く見て、人との繋がりを大切にする人だったと言います。いつもデザイナーに対し、一度工場に見学に来るように求めていました。JUBILEE のデザイナー、シミズダニさんも、最初は先代のご好意で工場を使わせてもらっていたそう。次第に若いクリエイターが集まり、工場で様々な制作をしていくようになります。様々な人が行き交うことで、大量生産ではない自由な発想のものづくりができる環境が育っていきました。

奥田染工場
インターン日記

ここであってる?

初めて工場に着いたときは、『え、ここであってるかな?』と思った。驚いたのは、想像とは違う工場の姿。たくさんの職人さんがいる大きな工場をイメージしていたけど、実際は2、3人の方が迷路のように入り組んだ場所で作業されていた!自分の持つ工場のイメージとは違くて、草が生い茂っていて虫がたくさんいたのも驚きだった。

効率重視

最初の仕事のほとんどは工場の掃除で、その後だんだんと現場のお手伝いもさせていただけるようになった。社員の宇田川さんも一年目は洗い場や掃除のみ で、その合間に師匠の技を見て学んでいたのだそう。掃除中、『効率重視だよ!』とハサミの持ち方から教わったり、作業過程以外にも職人さんたちとのコミュニケーションを通しての学びが多くあった!

シルクスクリーンが
できるまで


  • 1 .
    1色ごとにわけて
    1色ずつ型をつくる

  • 2 .
    染料を型にのせて
    道具でスライド

  • 3 .
    色を重ね合わせて
    出来上がり

人との繋がり

仕事を近くで見ていく中で、ブランド側の意匠をどう実現するか、そのためにどんな方法があるのか、どんなリスクがあるのか、という工場側の提案がとても重要なことに気付いた。工場が持つ繋がりや経験がこのようなコミュニケーションを生み、それが奥田染工のものづくりの多様さに繋がっているのだと感じた!

つくるのいえ
ものづくりの拠点 中野上町

2017 年に誕生した「つくるのいえ」。奥田染工場の奥田さんが運営するこの古民家は、織物工場の母屋をリノベーションして生まれた、ものづくりとものづくりが交差する場所です。つくるのいえにいると、とにかくたくさんの人が訪れます。

繊維工場の集積地
つくるのいえがある八王子市中野上町は、織物工場や糸染工場など、優れた繊維工場が集まった地域。周辺の通りには、布づくりに関わってきた方々が多く住みます。そのためつくるのいえでは、八王子織物の他、ニットや染色などのアーカイブを見ることができ、外からやってきた人たちの目にはそれがとても新しく映るのです。

「繋がり」の拠点
染工場で「繋がり」を育てていった奥田さんは、地元の繊維産業がひとつまたひとつと消えていく様子を見つめる中で、誰かが助けてくれるのを待つのではなく、「みんながハッピーでいられるためにまずは自分が動かなくちゃ」と感じたそう。そんな奥田さんが日本全国のものづくりが出会う拠点として始めたのが、「つくるのいえ 」プロジェクトでした。

日本全国のものづくり
八王子は、昔も今も流通の起点です。あらゆる人が交わる地に構えたつくるのいえは、全国の繊維産地からたくさんの生産者が集まります。デザイナーや地元の学生、不思議なおじちゃんやおばちゃんまで、様々な人が出入りする不思議な場所。八王子で生まれ、八王子の大学に通い、テキスタイルデザインを学ぶ私たちに、八王子が豊かな織物産地であったことを教えてくれました。これからもここで何が巻き起こるのか、楽しみです。

つくるのいえ
インターン日記

歴史ある古民家!

つくるのいえは、もともとは織物工場の母屋だったのだそう。中はとても広く、和室には凝った装飾も残されていてかつて繊維産業がどれだけ栄えていたのか実感することができた!

古い機械で実験!

職人さんから譲っていただいた古いニット機や組紐機。余った糸を使って、何か面白い表現ができないか実験!糸の組み合わせや順番を工夫して、新しい表現の可愛い組紐をつくることができた!古い機械でも工夫すれば色んなことができるのだと感じた。

調査!八王子ってなんだ?

インターンを通して八王子に触れるたび、八王子に住む私たちも八王子を全然知らないのだと感じた。私たちの目に映った八王子を発信し、「八王子ってなんだ?」を考えるため、八王子中の繊維工場を大調査!取材にうかがい、たくさんの新しい出会いと発見があった。